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神戸地方裁判所 昭和61年(レ)84号 判決

控訴人

山本芳信

右訴訟代理人弁護士

中村勝治

被控訴人

株式会社ライフ

右代表者代表取締役

菅正保

右訴訟代理人弁護士

川崎寿

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、昭和五七年一一月一二日控訴人との間で左記要旨によるリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(一) リース物件 ワクサーDO―S 一式(以下「本件リース物件」という。)

(二) リース期間 借受証発行日から六〇ヶ月間

(三) リース料 月額一万〇八〇〇〇円 但し、借受証発行月の翌々月の三日を第一月分の支払い日とし、毎月三日に被控訴人会社神戸支店に持参または送金して支払う。

(四) 遅延損害金 日歩四銭

(五) 控訴人が、右リース料の支払いを一回でも怠つた場合には、被控訴人は本件リース契約を解除することができ、控訴人に対し本件リース物件の返還及びリース料残額を損害金として請求できる。

2  控訴人は、昭和五七年一一月二二日本件リース物件を検収し、同日被控訴人に対し借受証を提出した。

3  しかるに、控訴人は昭和五八年一一月分以降のリース料の支払いをなさないので、被控訴人は、控訴人に対し昭和六〇年三月二九日到達の書面で遅滞リース料合計金一七万二九〇〇円を同日より七日以内に支払うよう催告し、支払いがない場合は右期間の経過により本件リース契約を解除する旨意思表示をした。控訴人は右遅滞リース料の支払いをしなかつたから、本件リース契約は昭和六〇年四月五日の経過により解除された。

よつて、被控訴人は控訴人に対し、債務不履行に基づき約定損害金として昭和五八年一一月分以降の未払リース料金五二万九〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年四月六日から支払いずみに至るまで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

全て認める。

三  抗弁

使用を始めて三、四ヶ月後本件リース物件のスプレーガンが詰まり液が出なくなり、昭和五八年八月頃には、スプレーガンから噴霧されるワックスが黒ずみ灰色に変色したため、本件リース物件の使用が不可能となつた。

四  抗弁に対する認否及び被控訴人の主張

1  抗弁事実は知らない。

2  本件リース契約においては、被控訴人の瑕疵担保責任は特約により免除されている。

控訴人は、本件リース物件のメーカーである訴外株式会社全陽(以下「訴外会社」という。)に対し本件リース物件の瑕疵の修理もしくは損害賠償を請求できるのであり、訴外会社も本件リース物件の故障あるいは異常につき全面的に処理する旨回答しており、控訴人の具体的保護に欠けるところはないのであるから、右免責特約が信義則に反し無効であるということはできない。従つて、控訴人がリース料の支払いを拒絶する理由はない。

五  控訴人の反論

本件リース契約締結に際し、控訴人は被控訴人から前記瑕疵担保免責特約につき十分な説明を受けておらず、右特約を十分認識しないまま本件リース契約を締結したものである。右のような事情がある場合、一般消費者保護の見地からして、右特約は信義則に違反する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因事実は全て当事者間に争いがない。

二控訴人は、本件リース物件に故障が生じ使用不能となつた旨主張するから、この点につき判断する。

〈証拠〉によれば、昭和五八年八月ころ本件リース物件に取付けられたワックスを噴霧するスプレーガンが詰まつてワックスが出なくなり、また液洩れの故障を生じたので、訴外会社が同月二四日本件リース物件のスプレーガンを取替える修理をしたこと、その後噴霧されるワックスが黒ずみ灰色に変色したため、控訴人は訴外会社に対し右ワックスの変色についての修理依頼をいく度か行なつたが、訴外会社において右修理依頼に応じなかつたこと、そのために遅くとも昭和五八年一一月以降は、本件リース物件により自動車の水あか取り及びワックス掛けができなくなつたことが認められ、〈証拠〉のうち右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原因は必ずしも明らかではないが、本件リース物件に使用するワックス液が灰色に変色し、噴霧されるというのであるから、本件リース物件には、遅くとも昭和五八年一〇月三一日にはそのワックスがけの使用目的を達することができない瑕疵が存在し、本件リース契約の目的を達することができなくなつたことが認められる。

三そこで、前記認定の瑕疵を理由として本件リース料の支払いを拒絶することができるか否かについて判断する。

〈証拠〉を総合すれば、本件リース契約は、いわゆるファイナンスリース契約と称せられ金融手段としてのリース契約であること、すなわち、本件リース契約は、昭和五七年一一月当時自動車の販売を業としていた控訴人がその営業上、本件リース物件を入手するため、リース業者である被控訴人に代金を支払わせて、供給者(サプライヤー)である訴外会社からその引渡しを受けて使用・収益をし、その対価として、被控訴人にリース料を支払うことを約定としたものであり、本件リース取引においては、本件リース物件の選定、その引渡及び受領は、控訴人から直接訴外会社に対して行われ、これらについて被控訴人が関与していないこと、したがつて、本件リース契約書(甲第一号証)には、本件リース物件の選択、引渡は訴外会社から控訴人に直接なされることを前提に、控訴人において本件リース物件の検収をした結果、同物件の瑕疵を発見した場合には、被控訴人に通知して、訴外会社に対して損害賠償請求をなし得るよう定められていたり(同契約条項七条、八条)、被控訴人に対しては、瑕疵担保責任及び修理義務を免除する旨(同リース契約条項八条一項、一二条)の条項があること、また、訴外会社は控訴人に対し本件リース物件につき修理義務を負担し、一度それを実行していたことが認められる。

右認定事実によれば、控訴人・被控訴人間の本件リース契約には、被控訴人において本件リース物件の瑕疵について責任を負わない旨の特約が定められていたのであるから、右特約に基づき、被控訴人には、前認定の本件リース物件に対する瑕疵につき責任がなく、一方、控訴人は、被控訴人に対し、右瑕疵を理由に本件リース料の支払を拒絶できないものといわなければならない。

なお、前記認定事実によれば、控訴人は、本件リース取引において、自己の責任で本件リース物件の選定・受領をしたものであるから、本件リース物件に瑕疵があつた場合には、その供給者である訴外会社に対して責任を追及すれば充分なのである。そうである以上、同取引において控訴人、訴外会社に金融的な便宜提供の役割をし、かつそれに関する責任があるが、本件リース物件の選定、引渡・受領に関与していない被控訴人に対して、同物件の瑕疵担保責任等を負わせないとする、控訴人、被控訴人間の前示免責条項は、合理的根拠を有するものというべきである。

四控訴人は、前記瑕疵担保免責特約につき十分な説明を受けておらず、十分右特約を認識することなく本件リース契約を締結したものであり、かかる事情の存するときは一般消費者保護の見地から右特約は無効である旨主張する。

しかしながら前記免責条項が合理的根拠を有すること前判示のとおりであるところ、〈証拠〉によれば、控訴人は被控訴人との間で本件リース契約を締結するに際し、前示特約の記載があるリース契約書(甲第一号証)に署名捺印していることが認められるから、控訴人において右特約を認識していなかつたものといえない。そして、控訴人が右契約の際、被控訴人から右特約の説明を受けていなかつたとしても、右特約が無効となるものではない。

五以上のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し、約定損害金として昭和五八年一一月分以降の未払いリース料相当の金五二万九二〇〇円及びこれに対する昭和六〇年四月六日から支払いずみに至るまで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

六よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は正当であつて本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官広岡保 裁判官杉森研二 裁判官飯田恭示)

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